ルービックキューブの展開図
「ルービックキューブって知ってるよね?昔俺たちが生まれる前にすごくはやったらしいんだけど、今でも知らない人いないくらいの遊具だよな。
これにまつわる面白い数字があるんだ。実は全人類でルービックキューブを6面そろえられるのは5~6パーセントくらいらしい。面白いよな。だから、ほとんどの人ができないんだ。
そしてできない側はできる側に向かって言うんだ。
「すごいね、頭いいんだね」
まったく、頭の悪い話だよ。
そもそもルービックキューブを6面そろえるのは全然難しいことじゃない。僕もこの間ルービックキューブ買ってるんだけど、毎日コツコツしてたら数か月あったら1分は切れるものなんだよ。ましてやそろえるだけだったら解説書を読みながらしたら、あっという間よ。
それに対して、頭がいい、という発想はやっぱりちがうだろ。
確かに世界記録を狙うような奴は最早バケモノなんだ。常人を逸した能力値は極限の競技性を生み出すわけなんだ。
でも、1分を切ることは凡人にも簡単にできる。
ルービックキューブは少し練習したらできる。そして周りからすごいといわれるんだ。なぜなら、その天才たちが魅せる頭の良さが「広告塔」となり、ルービックキューブは賢い人しかできないという権威主義的思考を生み出しているからなんだ。
ただ解き方を知っているか知らないかだけなのに。
これは数学の公式を生み出すのは凡人はまず不可能だとしても、超天才の先人の公式をつかって問題を解くことがとけることとそのままの構造がある。でも数学はできる人が多いから、ルービックキューブほどの練習量と評価のギャップはない。
つまり人間できるだけ世の中から尊敬されるためには、ルービックキューブのようなものをいくつもかき集めたらいいんだ。すこしの練習ですごいといわれるようなものをね。
労力に対する効果は大きいほうが、平等に与えられた時間という資源の効率をあげられるんだよ。
ルービックキューブというこの正6面体には、これほどまでの発想の「展開図」があると思わないか。
しかしそもそもそれを見つけられる人にセンスがあり、才能があるというのは内緒の話なんだけどね」
男はジャケットから、わかばと100円ライターを取り出した
まずそうに鼻から哲学の煙を吐き出した